#017: レコードブームとモノ消費

ぼんやりTwitterを眺めていたら、子供にせがまれてLP買った人の話が流れてきた。レコードが再び脚光を浴びているとか生産が間に合わないみたいなニュースは見ていたけど、Z世代の最後の方の子供がレコードを欲しがっている、クラスの子も持っていると言う生々しい話を聞くと数年ごとにあるリバイバルブームではない本物っぽさを感じる。

このツイートの主が住んでいるイギリスのデータが見当たらなかったのでアメリカレコード協会(RIAA)のデータを眺めてみると2007年を起点にアナログの売上が伸び始め2019年に加速が始まっている。2022年の売上ベースでは全体の7.7%をレコードが占めていてCDはわずか3%にすぎない。配信の頭打ち感は否めずレコードがCDと配信のシェアを食っている様相だ。ここまでCDが凋落したのも想定外だったしダウンロード販売が食われているのも驚きだった。

上のグラフはCD vs LP/EP vs ダウンロード販売を比較すべく切り出したものなので、これだけみると音楽コンテンツ全体の売上が先細っているように見えるけど、その他のメディアをグラフに加えてやると音楽コンテンツ市場自体は活況だし、ほとんどがサブスクで占められてしまっている。

そりゃそうだ。

ツイートの主が言うように定額であれもこれも聴けるなんて便利すぎる。レコードがCDの売上を上回ったというニュースに胸のすく思いをしているのは日本の中高年だけで、サブスクやストリーミングの前にあってはレコードもCDもダウンロード販売も鼻くそみたいなものなのだ。

そんな中でサブスクやストリーミングと言う圧倒的に便利な音楽コンテンツが手近にありながらもレコードを欲しがる若い子の行動は面白い。もしかしたらZ世代の子たちに取ってサブスクは超巨大な有料試聴機なのかもしれない。

レコードが現役でいまだにうっかり買ってしまう我が家もやっぱりApple Musicを試聴機として使っているし、ラジオや配信で知った面白い曲を確認するためのサービスをサブスクが担っているのかもしれない。すごく気に入ったらモノとして所有感のあるレコードを買うけど、そこまでじゃなかったらサブスクで聞いておしまい、みたいな。このような音楽との付き合い方ならダウンロード購入もCDも選択肢からどんどん外れていく。

きちんと選んだ上で気に入ったものをモノとして手元に置いておきたい、というのは人として健全な欲望だと思う。

貧しくなる一方の日本ではモノを持たない(持てない)という状況と歩調を合わせるように世界に対してモノを売る力が無くなりインバウンドに舵を切った資本と経済界が「モノ消費からコト消費への転換」を叫んだことで、僕たちは世の中がモノ消費からコト消費へと不可逆的に進むような錯覚に陥っているだけで、実際のところ人間はモノ消費から離れることができないのだ。経済界の連中がいう「モノ消費→コト消費→トキ・ヒト消費」の一方通行は実際のところ「モノ消費⇆コト消費」のように常に振動する平衡関係なのだ

そんな我が国はどうだろうと日本レコード協会のページを覗いてみるとなんだか時代遅れなそっけない表が転がっていた。数字の羅列をデータをグラフに起こしてみてびっくり。レコードの生産金額は確かに20倍以上になったけど…CDはレコードの30倍も生産しているらしい。この国はまだまだCDが元気なのだ。どん底だった2010年の1.7億円と比べて2022年は25倍も増えて43億円も生産しているのにCDの生産金額が桁外れすぎる。

何も欧米に合わせてCDやめてレコードにする必要はないけれど、ジャケットの質感も音の重厚さも素晴らしいものがあるし、何より「音楽を持っている」感覚はとても良いものなので若い子を中心に未経験の人はぜひお試ししたらいいと思う。

もしプレイヤーがなければAudio Technicaのこれをお勧めしたい。

TechnicsのSL-1200っぽいスタイルのダイレクトドライブだし、フォノイコついてるしBluetoothとUSB outもあるのでアンプやスピーカーに初期投資しなくてもBTヘッドホンで聴けたりPC/Macに音源録音できたりしてこの値段。お、レコードいいじゃん!ってなったらスピーカー買ったりアンプを買い足せばいいんだし。

SL-1200がいつの間にか馬鹿高くなっちゃったけど…昔はこれくらいの価格で買えたんだよなぁ(遠い目)。